この秋、新たに登場したベースメイク「ザ プランプ」シリーズ。スキンケアからメイクアップへと表現の領域を広げるにあたり、わたしたちは、メイクアップのための新たなかたちを探し始めました。
FASが大切にしている発酵とは本来、偶然の産物です。その始まりには「何かと何かが出逢う偶然」があります。
この言葉を起点に、その偶然の美しさをどう表現するか——フランス出身のデザイナー、グエナエル・ニコラさんが率いるデザインスタジオ「CURIOSITY(キュリオシティ)」とのセッションが始まりました。対話を重ねながら、ともにかたちを探っていく新しいデザインのプロセス。その造形の根底に流れる思考を紐解きます。

発酵をめぐる対話と気づき
セッションの冒頭で交わされたのは、そもそもわたしたちにとって「発酵とは何か」という問いでした。プロダクトデザイナーの白井信之さんが着目したのは、日本の歴史の中で培われてきた「気づく」という感性と科学の視点です。
「日本の発酵はいつも予期せぬ偶然から始まっています。ですが本当に大切なのは、単に偶然が起きることではなく、その変化を見過ごさずに気づくこと。味噌樽の底に溜まった副産物から醤油が生まれたように、思い通りにならなかった変化も『これはこれで魅力的な価値があるのではないか』と受け入れ、科学的に再現しようとしたからこそ、発酵は文化として定着していったのだと思います」

一方、フランス出身のニコラさんは、変化し続ける「プロセス」そのものに着目します。
「西洋では人間が完璧にコントロールして作った瞬間をピークと考えがちですが、日本の美意識は完成して終わりではありません。時間の経過という自然の作用が加わり、変化し続けていくプロセスそのものに美しさを見出す。発酵もまさにそうした営みですよね」

偶然に生まれた変化を見逃さず、そこに新たな価値を見出す。そのために必要なのは、あらかじめ頭の中でロジックや計算によってデザインを組み立てるのではなく、自らのシックスセンス(第六感)で目の前に起きる変化を感じ取ることでした。
だからこそ今回のデザインでは、最初からボトルの完成形を描くのではなく、「何かと何かが出逢う偶然」によって生まれるさまざまな変化のかたちを、まずは手作業で可視化しながらブレストすることから始まりました。

アルミホイルや発泡スチロール、粘土、時には木の枝や葉まで——。多様なマテリアルを用い、自由な発想で、まるで子どもの頃のように無心で手を動かしていく。試行錯誤を重ねるうちにアイデアの海はどんどん広がり、気づけば100以上もの試作が並んでいました。

キュリオシティにとっても初めての試みとなった、この「100の偶然」。無数の偶然のかたちを囲み、発酵との結びつきを探りながら対話を交わすなかで、もっとも直感的に発酵を物語っていたのが「Bubbles Are Born(偶然のバブル)」でした。
ふたつのバブル——ミクロとマクロの二面性
「本来ならば、決して交わらない正反対の性質を持つものが合わさったとき、そこにどんな変化が生まれるだろうか?」

そんな問いから生まれたのが、水と油が紡ぎ出す「Bubbles Are Born(偶然のバブル)」でした。正反対の性質を持つ要素が出逢い、互いに影響し合いながら思いがけないかたちへと変化していく。その姿に重ねたのは、発酵の始まりにある偶然の出逢いです。

バブル(泡)という現象が生み出す動きや重なり、そして変化の気配を表現する最小の単位——それが「ふたつのバブル」です。
このふたつのバブルの天面は、凹面と凸面という対照的な曲面で構成されています。
漆黒の表面が周囲の光や情景を映し出す鏡となり、深く覗き込む凹面は科学と向き合うスキンケアのミクロの視点、広やかに映し出す凸面は社会の中で自分自身を表現するメイクアップのマクロの視点を象徴します。
この凹凸がもたらす光の反射が、ひとつのフォルムの中にミクロとマクロという二面性を映し出しているのです。

時代を超越するタイムレスな造形
ボディを覆うように、すっと長く伸びるキャップ。あえてアンバランスに設計されたプロポーション。中のバルクをわずかに覗かせる控えめな佇まいは、着物の裾から覗く八掛の色香のような奥ゆかしさを感じさせます。ひと目見ただけでは何に使うのか分からない、抽象的な姿が手にした人の好奇心を惹きつけます。

「ラグジュアリーの本質には、効率や機能性だけでは測れない『無駄』や余白が存在します」と語るニコラさん。用途をあからさまに主張せず、どこか粋を感じさせるフォルム。あえて均整を崩したプロポーションと、情報を削ぎ落とした佇まい。その余白こそが、プロダクトに独自の高級感をもたらしているのです。
そのラグジュアリーな感覚は、見た目の造形だけでなく、手にしたときにも確かに感じられます。
「日本刀を鞘からすっと抜くような滑らかさ、手に伝わる適度な重み、開閉時の低い音。単に機能を満たすだけでなく、開閉という動作そのものに心地よい手応えを持たせることで、指先に伝わる質感や、なにげない所作の中に上質さを感じてもらえたらと思っています」と白井さんは語ります。

どこか伝統の面影を感じさせながら、同時に未来的でもあるタイムレスな佇まい。
手にとる瞬間はもちろん、ただ空間に佇む姿そのものが、ひとつのオブジェクトのように静かな存在感を放つ——。異なるものが出逢い、思いがけない変化が生まれ、そこに新たな価値を見出していく。対話を重ねて辿り着いたそのフォルムは、FASの発酵の本質そのものを物語っています。
Profile

グエナエル・ニコラ
Profile

白井信之
CURIOSITY(キュリオシティ)
フランス出身のデザイナー、グエナエル・ニコラが率いるデザインスタジオ。1998年の設立以来、東京を拠点に、インテリア、プロダクト、グラフィック、インスタレーションといった領域の境界を越え、シームレスなデザインプロジェクトを展開。国内外の多様なクライアントとともに、常に新しく多彩な実績を築き上げている。


































