佐々木1日1組限定の宿「民宿とおの」そして、和のオーベルジュ「とおの屋 要」を営んでいる佐々木要太郎です。発酵料理人としての肩書きの傍ら、米農家として米「遠野一号」の自然栽培を続け、その米を使ってどぶろくをつくる醸造家としても活動をしています。
ーーーー江戸時代から続く武士の家系に生まれ、100年余り続いてきた「民宿とおの」の思想を4代目として継承する。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極め、その傍らでどぶろくづくりを始める。そして10年以上の試行錯誤を経て国内外で絶賛されるどぶろくを製造している。
向山ありがとうございます。米をつくり、どぶろくをつくり、料理をつくる。食材の栽培から加工、そして提供まで。一貫してそこまでやられている方は、なかなかいらっしゃらないですよね。国内外で注目をされている佐々木さんのどぶろくですが、そもそもどぶろくづくりに興味をもったきっかけを教えていただけますか。
佐々木2002年、離婚を機に遠野に戻ると、父から「遠野市が日本初の『どぶろく特区』になる」と。父がどぶろく特区の発起人だったのもあり、免許申請をやってほしいと頼まれたのがきっかけです。父はおそらく事務要員として僕にお願いしたと思うのですが、実際に講習会にいったらどぶろくや発酵の魅力にどっぷりハマってしまって。どぶろくのつくり方って、日本酒と同じ並行複発酵っていう発酵のさせ方なのですが、これって世界で日本だけの技術なんです。
ーーーー並行複発酵は『糖化』と『発酵』を一つのタンクで同時進行で行う発酵方法。ビールなど単行複発酵は『糖化』と『発酵』を2つの工程にわけることでアルコールと炭酸を生み出す。
向山菌の働きによって生じる現象。その結果が人間に有益であれば『発酵』、人間に有害であれば『腐食』というように一般的には定義がされていますが、お酒づくりを通して発酵と向き合ってこられた佐々木さんは『発酵』というものをどのように捉えていますか。
佐々木 「生き抜くためのすべ」だと考えています。
発酵という技術は、寒い地域や貧しい地域ほど根づいた文化なんです。北国だと過酷な冬を乗り越えるために、食材をいかに保存できるかが鍵になります。昔は親から子どもへ、そしてまたその子どもへ、発酵という知恵が伝えられてきました。発酵には人を生かす力があると思います。
向山FASの主軸となる「黒米発酵液」に使用している黒米はすべて、京丹後市弥栄町芋野で栽培しています。米農家として米づくりを監修いただいている佐々木さんが最初にこの地に訪れた時には、どのようなことを感じましたか。
佐々木米づくりにおいて、とても理想的な土地だと感じました。なぜ理想的かというと、「自然本来の環境に戻しやすい条件」が揃っていたからです。山に囲まれ、落葉樹が周りにある環境だと季節によって落ち葉が入ってきたりだとか、自然の力を活かすことで田んぼを育てることができると考えています。
向山 「自然にかえす」という点では、一般的に世の中にある田んぼ、また米づくりはどのような方法がとられているのでしょうか。
佐々木農薬や化学肥料を使用する「慣行栽培」と呼ばれる方法が一般的です。適切な量の農薬や化学肥料の使用は、土の中の栄養素や害虫被害をコントロールできるため、柔らかくて甘い、栄養価が担保されたお米を安定供給することができます。
向山なるほど。お話を聞いていると利点も多いように感じますが、佐々木さんはなぜ慣行栽培ではなく、自然の力を活かす栽培方法をとられているのでしょうか。
佐々木そうですね。たしかにお米自体の甘みが強くなり、収量も安定するので慣行栽培がこれだけ普及しているのには納得がいきます。ただ、農薬を使ったり、化学的な肥料を使ったり、品種改良が重ねられていくと、お米の味に雑味が出てくる。そういったお米を使う日本酒の製造工程では、雑味をできるだけ排除するためにお米を削って磨いていくんです。
向山削っていくんですね。いいところだけをとるということでしょうか。
佐々木おっしゃる通りです。その分いらないところは破棄されてしまう。大変な思いをして育てたお米をなぜ磨かなければならないのか。わたしは、磨かなくても雑味の少ない綺麗な味わいのお米をつくるためにどうしたらいいのかを考えます。土の中の栄養素を自然の力に委ねながら適切に管理をしていくことで、選りすぐられた自然の栄養素だけがつまった綺麗で力強いお米ができ上がる。時に人工の力で自然をコントロールすることだけが最良ではないと考えています。
佐々木 「田んぼを自然にかえす」ことが綺麗なお米をつくることだとお話してきましたが、それはイコール何もしなくてもいいというわけでは決してありません。田んぼを自然にかえすためには、毎日欠かさず足を運び、根気よく向き合い続ける覚悟が必要です。
向山慣行栽培のように農薬を使わないということはその分、生えてくる雑草や集まってくる虫たちと向き合う手間暇が必要なんですね。
佐々木おっしゃる通りですね。日々生えてくる雑草の対処はかなり根気のいる作業です。さらに、今どんな虫たちが田んぼにいるのか把握することも重要で、例えば、お米の栄養を吸ってしまい米の質を落としてしまうカメムシや、病気を運んできてしまう有害な虫達もいれば、そのカメムシを食べて田んぼを綺麗にしてくれるクモのような有益な虫たちもいる。田んぼは生き物なので、良いことも悪いことも日々の変化に肌で触れて、その成長に寄り添いながらわたしたちが作業することが重要だと考えています。
向山佐々木さんの田んぼを見に行かせていただいた時に、クモの巣が張り巡らされているのを見て驚きました。
佐々木あれくらいが本当は非常に良い田んぼの状態なんです。逆に、虫がいなかったり雑草がまったく生えていなかったり、綺麗すぎる田んぼって異常です。農薬などで手を加え、人間の都合で自然の生態系の中の一つを排除してしまうと、どこかで歪みができてしまう。化学肥料も結局土の中で生きている微生物たちが分解できず、最終的に田んぼの水を抜いた時に一緒に流れ出て水質汚染に繋がってしまう。綺麗に濾過して排水できるシステムがあればいいですが、全部が全部そういうわけにもいかないと思うので。その場所本来の生態系を理解し守ることが重要です。
向山 「田んぼを自然にかえす」ってことはお米にとっていい取り組みですが、その活動の先で人やその周りの環境にも良い影響を与えてくれているのかもしれませんね。
佐々木 「日本の土を変える」そのために、一反の田んぼから始まった活動は、少しずつ広がりを見せています。FASチームがこの芋野という土地で始めた、古代米である黒米を自然の力を使って栽培する新たな取り組みも、きっと周りに良い影響を与えていくと信じています。米づくりって泥臭いです。美容という美に貢献する業界で、こうやって泥にまみれながら地道にものづくりに向き合うみなさんと、これから先10年、20年とこの活動を続けていきたい。実は、FASチームの活動を見た若者達が稲作を始めてみたいとか、発酵って面白そうとか、そういった米づくりや発酵の文化に興味を持って、次世代へと繋がる取り組みになっていくんじゃないかなと期待しているんです。
向山ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。
わたしたちは社としてずっと残るものをつくることをいちばん大切にしています。5年10年だけじゃなく、30年100年と次の時代にまで続くブランドになるために、今後ともよろしくお願いいたします。
Profile

佐々木 要太郎(ささき ようたろう) 古民家オーベルジュ「とおの屋 要」オーナーシェフ
1981年岩手県遠野市生まれ。久しく絶えていた在来米「遠野1号」を2002年より復活させ、無農薬無肥料の米づくりをスタートさせる。
2003年どぶろく造りをスタート。2011年1日1組限定の古民家オーベルジュ「とおの屋 要」を立ち上げ、発酵料理の提供を始める。その料理とどぶろくが評判を呼び、一般客のみならず、国内外のシェフ、ソムリエ、蔵元などが訪れ、予約の取れない宿に。
「The Japan Times Destination Restaurants 2021 」では、世界の人々のための日本のレストラン10店舗に選ばれ、「The World’s 50Best Discovery」では東北で唯一選出される。
世界的美食ガイドとして知られる「Gault &Millau」初の日本全国版「Gault &Millau JAPAN 2023」において、全国掲載店501店舗の中から「トラディション賞」を受賞。
佐々木 要太郎の仕事と哲学をまとめた書籍「遠野キュイジーヌ」が小学館より発売されるなど、世界に向け独自の道を歩んでいる。