春の催し「アクリル作家 俵藤ひでと展」
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2026.05.01

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春の催し「アクリル作家 俵藤ひでと展」

さわやかな新緑の季節。心地よい風とともに連休が始まりました。FAS京都東山本店では、春の催し「アクリル作家 俵藤ひでと」展を開催しております。

本展は、日本に古くから息づく素材やものづくりを現代の視点と掛け合わせ、新たな価値を生み出すプロジェクト「FAS THE CRAFTS」の一環として実現しました。化粧品という枠を超えて、まだ見ぬ美しさや作り手のひたむきな思いと出会う——。この場所が、お客さまと作家の感性が共鳴するひとつの結び目となることを願っています。

会場となるのは、本店2階の小さな応接室。窓の外には、今まさに新緑の借景が広がっています。築100年の歴史を刻んできた東山本店。この空間が生まれた頃、アクリルという素材はまだ存在していませんでした。約80年前に生まれた現代の工業用素材であるアクリルがこの場所に置かれるとき、ひとつの空間で異なる時間が静かに交差します。

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水の一瞬を留める結び

東山本店の1階には、俵藤さんに制作いただいた「水の彫刻」が常設されています。FASの黒米が育つ京丹後の清らかな水の美しさを写し取ったこの作品は、今や本店の風景の一部となっています。

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2階の応接室へ足を進めると、「水の彫刻」からさらなる発展を遂げた最新作「Like a stone, like water.(石のように 水のように)」をはじめとする、水の一瞬の揺らぎを閉じ込めた作品群が目に飛び込んできます。ぷるんと弾む水滴のようでもあり、静かに佇む石のようでもある――。「Like a stone, like water.」は、そんな相反する二つの要素を内包しています。本来なら留めておくことのできない水の一瞬をつなぎ止めているのは、一本の麻縄です。麻縄の持つ神秘的な力や結界によって留められた水は、この縄を解けば、たちまち元の姿に戻ってしまう。そんな緊張感を帯びています。

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結ぶという行為は、俵藤さんにとって一つの儀式のようなものです。結ぶの語源とされる産霊(むすひ)には、新しい生命や魂を生み出すという意味があるといいます。最後に自らの手で麻縄をギュッと結び、作り手の想いを封じ込める。その結びの儀式を経て、作品はようやく完結を迎えるのです。

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床の間に置かれた「Water from a cut-out a pond(切り出された池の水)」もまた、波紋が広がる水面をそのまま切り出し、麻縄の力で形を保っています。窓辺や1階の庭には、茶庭の境界を示す関守石をモチーフにした作品も並びます。

日本人が古来より受け継いできた結びの文化。その精神性を纏わせることこそが、俵藤さんの独自の表現なのかもしれません。

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竹の「景色」をアクリルで描く

俵藤さんが茶道具を手がけるようになった原点は、約15年前に制作した一本の茶杓にあります。本展の新作では、竹茶杓の景色の一つである蟻腰(ありごし)に挑んでいます。節の下を深く削り込み、蟻の腰のような細いくびれに見立てたこの造形は、本来は竹の個性が生む自然の産物。それをあえてアクリルで作り出した本作には、「蟻腰もどき」という銘が添えられています。素材の純粋さを際立たせたクリアな作品のほか、内側に樋(ひ)と呼ばれる凹みの筋を施したもの、櫂先(かいさき)を煤竹(すすだけ)に見立てて、深い色合いのグラデーションを表現したものなど、多様な表情が並びます。

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2kgの塊から生まれる、片想いの写し

茶杓と並び、圧倒的な存在感を放つのがアクリルの茶碗です。室内に並ぶのは、歴代の名工たちが遺した茶碗へのオマージュ。初代長次郎のプリミティブな手びねりの美しさを写した「金毛(きんもう)」、千利休が好んだとされる「次郎坊(じろうぼう)」の写しなど、名品の面影をアクリルで表現しています。特に「次郎坊」を模した作品は、底に施された金箔がお茶を飲み干した後に月のように浮かび上がる、おぼろ月の演出も盛り込まれています。

俵藤さんの茶碗作りは、図鑑にある断片的な写真から理想の形を写し取ることから始まります。いわば、片想いの写しです。3Dプリンターなどは一切使わず、あらゆる角度からの情報を想像で補い、本物の名品に想いを馳せながら形にしていく。そのプロセスには、一方通行ゆえの純粋な熱量が宿っています。

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その造形は驚くほど原始的で愚直な手作業によって支えられています。リューターやドリルといった手道具を駆使し、約2kgのアクリルの塊を1〜2週間という時間を費やして削り出し、最終的に約400gになるまで仕上げていきます。この重さは、茶道の茶碗として手にしっくりとなじむ理想的なものです。

「簡単に作れるものなら既製品のアクリルでいい。膨大な労力を注いで、一点一点を手で削り出すからこそ、彫刻作品としての美しさと、茶道具としての用の美が共存できると思うんです」俵藤さんはそう語ります。その透明な肌に触れるとき、わたしたちはそこに注ぎ込まれた目に見えない仕事量を、確かな質量として感じることになります。

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偽物から、唯一無二の工芸へ

本展の主役であるアクリルという素材。その成り立ちを辿ると、俵藤さんがかつてこの素材に抱いていた葛藤が見えてきます。

アクリルの誕生は、今から約80年前。第二次世界大戦の最中にまで遡ります。もともとは戦闘機の風防(コックピットの窓)に使われていたガラスの代用品として開発されました。極限の状況で求められたのは、ガラスを凌ぐ強度と軽さ。効率と汎用性を追求し、歴史の荒波を生き抜いてきた工業用素材です。

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アクリル職人であった父の背中を見て育った俵藤さんにとって、アクリルは幼少期からあまりにも身近で、当たり前に存在するものでした。最初はカッコいいと思えなかったと、俵藤さんは振り返ります。木工や鉄鋼といった歴史ある素材とは異なり、伝統的な文化としての文脈を持たない工業用の代用品。その立ち位置が、かつての俵藤さんにはどこかネガティブに映っていたといいます。

そんなアクリルへの見方が変わったのは、歴史の浅さを逆手に取る発想からでした。現代の工業用素材を、あえて対極にある古の茶道具や自然物と掛け合わせることで、独自の表現を拓いていきます。

ガラスの代用品という偽物の素材としての宿命。そこに天然石や麻縄といった自然物の力を添え、気の遠くなるような手仕事を注ぎ込む。そのひたむきな熱量から生まれた作品は、もはや単なるプラスチックの塊ではありません。膨大な時間の集積が、工業用素材という枠を超え、唯一無二の美を放つ工芸へと変貌を遂げているのです。

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100年後のアンティークへ

アクリルは、木のように時を経て味わいが増していく素材ではありません。しかしそれは裏を返せば、樂茶碗のように作り手が込めた美しさをそのままの姿で保ち続けられるという強さでもあります。経年によって朽ちるのではなく、100年、200年という時間を鮮やかに越えていくポテンシャル。この「変わらない」という性質は、瞬間の情熱を未来へと手渡す、この素材ならではのポジティブなあり方なのかもしれません。

ある時、作品を手に取った方から「100年は大事にします」という言葉をかけられ、俵藤さんは深い喜びを感じたと言います。
「僕が生きた時間を軽々と飛び越え、誰かの大切な道具として引き継がれていく。現代の素材であるアクリルに、これから歴史という厚みが重なっていくことにロマンを感じました」

100年の歴史を持つ空間に置かれた、次なる100年へと繋がっていく透明な造形。新旧の時間が美しく交差するこの場所で、透明なアクリルに込められた見えない熱量に触れてみてください。みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

展示概要

・期間   :2026年4月20日(月)~2026年5月10日(日)
・場所   :FAS 京都東山本店 2階
・住所   :〒606-8431 京都府京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町3
・営業時間 :11:00~18:00(火・水 定休)

Profile

俵藤ひでと

俵藤ひでと

アクリル職人・デザイナー・作家。大阪生まれ東京育ち。アクリル職人の2代目として、プロダクトからアートピースまで領域を選ばず立体物のデザイン及び製作を行う。アクリルの塊を手作業で削り出す彫刻技法で、アクリル茶道具や「寄せアクリル」など、工芸品としてのアクリルの新たな可能性を切り拓いている。

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