「黒い土」
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2025.12.11

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「黒い土」

 

FASの故郷・京丹後にも、そろそろ雪がちらつき始める頃。七十二候では「小雪(しょうせつ)」──本格的な冬の気配を感じる季節です。この時期になると、毎年恒例になりつつある黒米の稲刈りがやってきます。
11月下旬、今年も無事に発酵液の原料となる黒米を収穫しました。より品質の高い黒米をつくりたいという思いから、無農薬・無肥料での栽培に挑戦して二度目の秋。風や雨、太陽、そして土。自然の力にゆだねながら、今年も豊かな稲穂が実りました。
わたしたちは手塩にかけたお米を、贅沢にも化粧品にしていますが、もちろんこの黒米は安心安全で、とっても美味しいんです。 化粧品原料を“食べる”なんて、少し不思議に感じるかもしれません。でも、だからこそ。スキンケアだけでなく、肌にのせているものを体の中からも感じてもらえたら── そんな思いから、FASの黒米を“味わう”新しい取り組みを始めました。
この夏より東山本店では、FASの黒米を使ったお菓子をご用意しています。黒米に新たな物語を吹き込んでくださったのは、京都の和菓子屋「御菓子丸」の店主、杉山早陽子さんです。今回は、黒米から生まれたお菓子「黒い土」のお話を。

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味の輪郭を確かめる手

伺ったのは京都にある御菓子丸の和菓子が生まれる工房。蒸し器から立ちのぼる湯気に迎えられ、「黒い土」が形づくられていく様子を見せていただくと、その始まりが“手の確かな感覚”にあることに気づきます。黒い土は、2日間浸水させた後、乾燥させパウダー状にした黒米を蒸し上げた、ふっくらとした餅菓子。米粉に水を加えて混ぜ、生地の具合を確かめる手つきは、まるで土遊びをしているかのよう。「ぎゅっとしたら固まるけど、手でほぐしたらパラパラと粉状に戻る。このくらいがちょうどいい塩梅です」黒豆、黒落花生、燻製したブルーベリー。アントシアニンを豊富に含んだ素材を型に隙間なく敷き詰め、 黒米と交互にミルフィーユのように層を重ねていきます。

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いちばん上には、蒸し上がった時にわずかな凹凸が残るよう、手でぎゅっと握った石のような粉の塊をのせていきます。こうすることで、隙間に空気が入って、ふんわりとした食感が生まれます。蒸し上がった表面は菓銘の通り、まるで土のような表情。ゴロゴロとした“石”は、 見た目の陰影をつくるだけでなく、おいしさにも寄与しています。 「まさに“手で食べる”ような感覚です。 手で触っていると、おいしいかどうかがわかります。 お餅のように、直接火を通さないものは特に、この手触りが、口に入れた時の食感にダイレクトに反映されます。 御菓子丸で提供しているお菓子に、宝相華(ほうそうげ)という和三盆の口どけをイメージした焼き菓子がありますが、これはまさに粒子が細かくてさらさらな状態が、すっと消える口どけのよさにつながっていたり。 それを手で判断するんです」

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口に入れて味見をしなくても、触った瞬間に分かる。杉山さんにとって“手”は、やわらかさやきめ細かさなど、生地の具合を捉え、食感を見極めるための、鍛えられた感覚器そのもの。お菓子づくりの精度を支える、その確かな“手の感覚”こそ、杉山さんの創作の軸なのだと感じました。

黒い土──菓銘に込めた思い

黒米をパウダー状にしたときの、さらさらとした土のような質感。水を混ぜ合わせるときの、土遊びをしているような手触り。蒸しあがった黒米のふかふかとしたその質感は、京丹後の土を想像させます。「食材の原点は、やはり“土”にあると思います。お米の田んぼも、野菜を育てる畑も、すべては土から生まれます」
──「黒い土」という菓銘には、そんな作物のはじまりへの思いが込められています。

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和菓子には、一つひとつに“菓銘(かめい)”と呼ばれる名前があります。 和歌や俳句、花鳥風月をベースに季節や情景を写した意匠(デザイン)に美しい名前が添えられています。 この菓銘に惹かれて和菓子の世界に飛び込んだという杉山さん。

「桜の時季を代表する伝統的なお菓子に、『花筏(はないかだ)』というお菓子があります。川に散った花びらが水面に集まり、そのままゆっくりと流れていく様子を筏に見立て、 花筏という菓銘がつけられています。散った桜を筏に見立てる、そんな美意識が日本人らしく、それがお菓子として成立しているところがまた面白いなと感じて。和菓子って一つひとつに物語がある、とてもコンセプチュアルな食べ物に感じたんです」

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茶席菓子の伝統から生まれた、自由な発想の和菓子

和菓子の世界に入り、茶席菓子を学んだ杉山さん。お茶席のしつらえにはまずお抹茶があり、茶花があり、掛け軸があります。全体の調和の中で、お菓子はその一端を担う存在です。お抹茶をより美味しくいただくために添えられる茶席菓子は、味そのものを主張するのではなく、美しい意匠と“菓銘”によって季節や情景を想像しながら楽しむもの。桜の季節と紅葉の季節に登場する上生菓子は、見た目は全く異なっても、味は同じ──こうした“控えめなあり方”こそが美徳とされてきました。
その伝統の中で杉山さんの創作に大きな転機をもたらしたのが、中国茶に合わせるお菓子の制作依頼でした。お抹茶ではなく中国茶と組み合わせるなら、お菓子の味わいも変わるべきではないか──。そんな発想から、柑橘が中国茶とよく合うと聞き、 試しに果皮を加えてみたことが始まりです。

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こうして生まれたのが代表作「鉱物の実」。黒文字の枝を軸に、結晶化した果実のような琥珀糖が枝先に実る美しい佇まいのお干菓子です。「柑橘の果皮を入れたら、自然の黄色が美しくにじみ、着色料を使わなくてもいいんだと気づいたんです。 甘さも中国茶には強すぎるから控えてみたり……」

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従来の型にとらわれない発想がひらけたことで、杉山さんの創作はお菓子の“ビジュアルを追求する領域から、“味わいや香りといった感覚を広げる”方向へと大きく舵を切りました。「桜がほのかに香る〈花筏〉があってもいいし、〈薫風〉という初夏の伝統的なお菓子には青もみじの爽やかさがあってもいい。そういう遊び心があってもいいんじゃないかと思ったんです」

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和菓子は五感の芸術

「和菓子は五感の芸術」という言葉があります。だとしたら、もっと“芸術としてのアプローチ”があってもいいのでは──。杉山さんは、そんな視点から和菓子の表現の可能性を探っています。芸術としての和菓子の強みとは何か。それは「消える」という特性だといいます。
美術作品は鑑賞したあともそこに残りますが、和菓子は食べた瞬間に形を失う。視覚だけではなく、味・香り・手触り・音。五感を総動員して体験し、“今この瞬間”に没入する。どこかインスタレーションのようでもあり、禅の思想にも通じるものがあります。

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「食べて消える」は「崩れる」という体験

食べた瞬間に消える和菓子の体験は、口の中で「崩れる」という言葉に置き換えられます。
「普通はそんな風に意識しないと思いますが、実際に口の中で崩れています。宝相華は口に入れた瞬間すうっと消える。琥珀糖はシャリッとした歯触りの後に寒天のやわらかさが訪れる。ほろっと崩れるお菓子があったり、その崩れ方次第で人はおいしいか、おいしくないかを判断していると思っています」すべての和菓子に共通しているのは、上品に崩れること。

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五感は本来、分けられないもの

「五感」という言葉があるから“視覚・味覚・嗅覚・触覚・聴覚”と分けて考えがちですが、 実際には相互に混ざり合っています。「おせんべいを食べるときの“バリッ”という音も、触覚と聴覚が重なり、音そのものがおいしさにつながっている。人は無意識にこうした微細な感覚の重なりを受け取っているんです。それをあえて意識化すると、五感が解放され、感覚がひらけていくというか」口にした瞬間、五感が呼応し合うことで、まるでその和菓子が自身の物語を語り出すように感じられるはずです。

そんな体験も、御菓子丸の和菓子の魅力のひとつかもしれません。黒い土は、どんなふうに語りかけてくれるのでしょうか。 FAS東山本店にお越しの際は、どうぞゆっくりとその時間を味わっていただけたらと思います。

FAS 京都東山本店
〒606-8431
京都府京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町3
11:00 - 18:00(定休日 火・水曜)

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