去る7月30日(木)〜8月30日(日)の期間、FAS 京都東山本店にて夏の催し「本と涼む」を開催いたしました。
おかげさまで2回目となった今年は、受付開始から瞬く間にすべてのお席が埋まることとなりました。皆さまからの温かい反響に、心より感謝申し上げます。
会場で過ごされた方はもちろん、今回はお越しいただけなかった皆さまにも、この図書室で流れていた空気の一端を本記事を通してお届けできれば幸いです。

日常を離れ、読書の風に涼む
古くは平安時代、貴族たちが夕暮れの庭園や川辺に涼を求め、五感で心地よさを取り入れた「夕涼み」の文化。その知恵を現代の新たな読書体験として紡ぎ、2階の応接室を貸切図書室として開放いたしました。静かな空間でページをめくる音とともに過ごす、心地よい納涼のひととき。
会場には、FASにゆかりのある方々に「夏の暑さから離れ、静かな空間で読みたい本」をテーマに選んでいただいた本が並びました。自分では普段手に取らないような本との思いがけない出合いは、心に新しい風を吹き込んでくれます。

そこでここからは、期間限定の図書室に並んだ豊かな選書を一挙にご紹介いたします。選び手の想いとともに、ぜひじっくりとお楽しみください。(以下、50音順にて掲載しております)
青木 渚 アイスクリームショップ「MAISON FARMER」パティシエ

<選書>
『スローフード宣言――食べることは生きること』
アリス・ウォータース (著)、ボブ・キャロウ (著)、クリスティーナ・ミュラー(著) (海士の風)
異国での孤独な挑戦の中、ネガティブになりそうな私に現在地と道筋を教えてくれた心の支えです。著者の息吹を感じる土地で、毎週ワクワクしながら訪れたファーマーズマーケットの記憶は今も胸にあります。静かな空間でページをめくりながら、食と生き方に向き合える大切な一冊です。
『センス・オブ・ワンダー』
レイチェル・カーソン(新潮社)
ルバーブ畑の美しさと、我が子を語るように目を輝かせる生産者さんの姿。心動かされた私はその感動をデザートに落とし込み、シェフと相談してこの本の題名をそのままメニュー名にしました。目の前にある自然の美しさや神秘に改めて気づかせてくれる一冊です。
『すべてはおいしさのために』
オーボンヴュータン 河田 勝彦(自然食通信社)
また食べたくなる味とは何か。技術やデータの先にある「素材をどう生かし、五感を働かせるか」という探求の答えをくれる本です。妥協なく物作りに向き合う姿を通して、目標へ熱く突き進むすべての人に「その情熱の先にこそ本物がある」と進むべき道を確信させてくれます。偉大な職人の生き様から学べる一冊です。
井口和哉 レストラン「TOUMIN」シェフ

『日本の定番料理10の謎』
樋口直哉(NHK出版)
「ポテトサラダはなぜおかずになったのか?」そんな見出しからはじまるこの本は、10の定番料理を通して、昭和30年代から現代に至るまでの食文化や生活様式、当時の社会背景まで楽しく知ることができます。読み進めるほどに、食の歴史をたどる民俗学のような面白さがあり、料理を作る側にも食べる側にも、新しい視点を与えてくれる一冊です。
『発酵の技法』
サンダー・キャッツ(オライリージャパン)
たくさんの偶然と必然が重なって生まれた、世界中の発酵食品たち。
どんなクリエイティブな人が、それを最初に試そうと思ったのか!?と考えるだけで、その発想力と好奇心に圧倒されます。章ごとにテーマが分かれていて、一話完結で気軽に読めるのもおすすめです。
『センス・オブ・ワンダー』
レイチェル・カーソン(新潮文庫)
文章も少なく、美しい写真がたくさん収録されていて、頭を空っぽにして眺めるだけでも楽しめる一冊です。 レイチェル・カーソンさんの自然への純粋な驚きや感動、畏れに五感が呼び覚まされる、まさにテーマの夏の暑さから離れて静かな空間で読むにはぴったりです。
クリエイティブユニット「OLINA」

<オリヴィエ・ガルシア 選書>
『オン・ザ・ロード』
ジャック・ケルアック(河出書房新社)
アメリカのビート・ジェネレーションを代表する伝説のロードノベル。地平線へと続く荒野を疾走する旅の真ん中にある、不思議な精神的静寂を感じさせてくれます。
『荒野へ』
ジョン・クラカワー(集英社)
文明を捨て、アラスカの大自然の深部へと足を踏み入れた青年の足跡を追ったノンフィクション。圧倒的な大自然の孤独と、自分自身に寄り添うような厳格な静寂がここにあります。
『The Rum Diary』
ハンター・S・トンプソン(Bloomsbury Publishing PLC)
カリブ海の熱気と混沌、そしてその裏にある冷めた虚無感を描いた作品。うだるような夏の喧騒から一度離れ、誰もいない静かな空間で、乾いた孤独の物語にじっくりと没頭する読書時間を届けてくれます。
<髙遠菜都子 選書>
『失われた時を求めて 1 第一篇「スワン家のほうへ Ⅰ」』
マルセル・プルースト(光文社)
オリヴィエの母国フランスの文学であり、同時にNatsukoの叔父が翻訳を手掛けた、私たちにとって非常に縁の深い大切な一冊です。静かな部屋で過去の記憶を手繰り寄せるひんやりとした内省の時間と、瑞々しく匂い立つフランスの自然の描写は、夏の読書に最高の静けさを与えてくれます。
『TORSO Shinichi Kaneko Photographs』
金子親一(そしえて)
写真家・金子親一氏が、伸縮する布を使い、立体的な造形美を捉えた写真集です。元ファッションデザイナーの視点から、あえて文字を追う読書ではなく、静かにページをめくりながら布の質感や光と影の陰影を楽しみ、感性を研ぎ澄ます。そんな贅沢で静謐な時間のために選んだビジュアルブックです。(本のデザインは、MAISON OLINAのロゴを担当してくださったN.G.incの永井裕明さんです。)
『小さな家(Une Petite Maison)』
ル・コルビュジエ(集文社)
フランスで生活していた頃は、建築家ル・コルビュジエの作品を見に、地方まで足を運んでおりました。彼がレマン湖畔に建てたミニマルな住まいの記録。衣服のように一切の無駄を削ぎ落とした空間美と、窓から見える湖の静けさが、心地よい涼を運んでくれます。
加藤順子 歯科医師、「平尾賛平商店」代表

<選書>
『藤田嗣治「異邦人」の生涯』
近藤史人(講談社文庫)
平尾賛平商店とも関わりのあった画家·藤田嗣治の生涯を描いたノンフィクション。遠い世界の話でありながら、自分も確かに(とてもとても小さな接点ではあるけれど)この人の生きた時代の延長線上にいるんだ、という不思議な気分を味わえた一冊です。
『日本のデザイン - 美意識がつくる未来』
原研哉(岩波新書)
日常の生活の中に生まれる美意識こそ、ものづくりに必要な「資源」である、というこの本の基本的な考え方や、ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想こそがデザインである、という言葉に共感しました。
『ゲームの王国』
小川哲(早川書房)
愛聴しているpodcastで紹介されていたことをきっかけに手に取ったら、あっという間に引き込まれてしまいました。「火の鳥」や「三体」を彷彿とさせる情報量と引き込まれレベル。歴史的名作だと思います!
橘田優子 植物染色作家、kitta主宰

<選書>
『すべての、白いものたちの』
ハン・ガン(河出書房新社)
すべてが美しくて、眠りたくない夜がある。窓辺の白い絹布や窓辺に飾った小さな花さえも、夜空の色を纏い白く光る。風がカーテンを揺らすスローモーションのような時間。この本を開くと、いつでもそんな静寂の時間へ接続されてしまう。詩のようで、物語のような。言葉そのものの力に満ちた一冊。
『優しい地獄』
イリナ・グリゴレ(亜紀書房)
民話の世界のような祖母との暮らしと、社会主義政権下で労働者として働く両親との暮らし。幼い著者が行き来した二つの世界の対比が、なぜか私の遠い記憶を呼び覚ます。失ったもの、守り続けたもの。ルーマニア語が母語である著者が日本語で記した繊細で鋭い言葉が胸に響きます。
『南洋と私』
寺尾紗穂(中央公論新社)
この本は、シンガーソングライター・寺尾紗穂さんが、かつて日本が統治していた「南洋群島」を巡った記録です。歴史の教科書には載ることのない、その島々で暮らす人たちの記憶。彼女は丁寧にその声を尋ね歩き、かつての戦争がもたらした現実を、私たちの目の前に静かに差し出します。 「過去は決して過去ではなく、今と地続きである」私自身、音楽家・寺尾紗穂の一ファンとして手に取った初めての一冊でしたが、改めて「知ることの大切さ」を深く思い知らされました。ぜひ、静かな時間に手に取ってみてください。
木本梨絵 クリエイティブディレクター

<選書>
『森へ (たくさんのふしぎ傑作集)』
星野道夫(福音館書店)
森に繰り出し深呼吸したい気持ちは山々でも、暑くってそれどころではない、という日もありますよね。そんなときに星野さんはいつだって、私たちを一瞬で、深い南アラスカの森へと連れていってくれます。騙されたと思ってまずは本を開いて、ぱらぱらと瑞々しい写真を眺めて、それから気になる箇所を一節読んでみてください。弾ける水の音が、苔むす森の安らぎが、本当に聞こえてくるのですから不思議です。
『自然 人間 営み』
(株式会社海士)
夏の日差しで思い出すのは、隠岐島の暴れる海と朝の静けさです。不便で優しい遠い島で海を眺めていると、都市で失っていた時間の流れのコントロールを少しだけ取り戻すような感覚があります。分厚い本に寄せられたのは、意外にも5分で読みきれてしまう島の人々の暮らしの断片です。ぜひ島の暮らしの豊かな時間軸を、本を通して感じとってみてほしいです。
『動いている庭』
ジル・クレマン(みすず書房)
草花が季節とともに放浪し、絶えず姿を変える「動いている庭」。クレマンは、自然を制御する視線を手放して、その動きにゆだねることを説いています。涼というのも、暑さを力でしのぐことではなく、木陰の移ろいや土の湿りに身をあずけることなのかもしれません。夏のリズムに歩調を合わせたとき、ふと訪れるもうひとつの涼しさに想いを馳せながら。

友利 新 医師

<選書>
『成熟スイッチ』
林 真理子(講談社)
常に話題をふりまき、女性の生き方の先端を歩む林真理子さん。キャリアを通じて柔らかく進化する自然な生き方の転機を「成熟スイッチ」として描いています。女性は一生かけて成熟すると考えれば気楽になる、キャリアに悩んだとき元気になれる良著です。
『科学的根拠に基づく 最高の勉強法』
安川康介(KADOKAWA)
効果的な勉強法が非常に簡潔にわかりやすく整理されている一冊。勉強法がわかると学ぶことが楽しくなり、本当に身になっていくんだと知ることができます。いくつになっても学ぶことは必要で、そのコツを知ることでさらに学びたくなるので、どんな年代の人にもおすすめです。
『精神科医Tomyが教える 心の中のネガティブさんと上手につきあう方法』
精神科医Tomy(アチーブメント出版)
誰でも陥ってしまう「ネガティブな思考」。これをしないのではなく、「上手に付き合う」受け入れ方を現役の精神科医が科学的に説明しているので、不安な時でも弱さがなぜ来るのか理論的に理解でき、心が軽くなります。
芳賀 龍 シェフ

<選書>
『TAPIO WIRKKALA』
Tapio Wirkkala(ブルーシープ)
大きな成功を収めたデザイナーはあるとき北極、ラップランド北部のルオトツントゥリに小屋を構える。あらゆる世俗から離れ、徹底的に氷や石、鳥やトナカイを観察した。彼のデザインや思考の明晰さに触れ、最北の静けさ、冷たさを感じたい。
『風の歌を聴け』
村上春樹(講談社)
長いようで一瞬で終わる夏休みのような小説。タッチの軽さがまさに風のよう。
『Sorolla THE MASTERWORKS』
Blanca Pons-Sorolla(Skira Rizzoli)
文字から離れ画家の向けた眼差しに没入するのも、涼を感じるには良いのかも知れない。
近代スペイン最高の具象画家Joaquín Sorolla(ホアキン ソローリャ)の画集。波打ち際ではしゃぐ子どもや、風にはためく白い布。地中海の夏の景色から、水の飛沫や力強い風を感じ取れる。
安永ケンタウロス フォトグラファー

<選書>
『夢十夜』
夏目漱石(平凡社)
「こんな夢を見た」で始まる幻惑的で美しい十の夢。ひんやりとした静けさと美しさに満ちた世界の第一夜が特に好きで、年月を感じさせるモチーフの数々が、時間を伸縮させる素敵な装置になっています。
『山の刻』
文 : 小林百合子 、写真 : 野川かさね (パイ インターナショナル)
儚く美しい山の情景と、自然が刻む穏やかなリズムを収めたビジュアルエッセイ。どの頁から読み始めてもいいし、都会の喧騒を忘れさせます。じっくりと時間をかけて育まれる発酵の優しさに通じる豊かな時間を届けてくれます。
『石が書く』
ロジェ・カイヨワ (創元社)
自然が偶然石の中に描いた、神秘的な模様をめぐる美学の書。人為的な意図を感じさせる地球の営みが作り出した結晶。そこから夢想の旅がはじまります。

涼風の余韻から、実りの秋へ
うだるような夏の暑さのなか、まちの喧騒から離れたこの東山本店まで足を運んでくださった皆さま、誠にありがとうございました。今回ご来場が叶わなかった皆さまへも、この誌面を通して静かな涼をお届けできましたら幸いです。
まだまだ残暑が続きます。ここで出会った本や言葉が、皆さまの毎日に小さな涼風を届けるものでありますように。
FASはこの秋、おかげさまでブランド誕生から3周年を迎えます。この節目を記念して、10月7日(水)〜12日(月・祝)の6日間、東京・原宿にて特別な催しを開催いたします。わたしたちのものづくりへのこだわりと情熱を五感で紐解く展示となります。詳細は公式HPの特設ページをご覧くださいませ。
今回惜しくもご参加が叶わなかった皆さまにも、そしていつもFASを愛してくださる皆さまにも、この秋にお目にかかれますことを心より楽しみにしております。

































