京都に拠点を構えるわたしたちにとって、特別な場所があります。まちの喧騒から離れた一角に、静かに佇むFASの旗艦店。今回は、立ち上げ当初からの想いが詰まった場所について、少し長くなりますがお付き合いいただけるとうれしいです。
京丹後の古代黒米との出逢いを出発点に、わたしたちはごく自然に京都に拠点を構えることになりました。ブランドの立ち上げと並行して進めたのは、FASの在り方そのものを体現するような場所づくり。この東山本店はFASというブランドを知っていただくための、はじまりの場所でもあります。

築100年の空気に導かれるように
3年前の夏。そんな場所を求めて、わたしたちは京都のさまざまな物件を巡りました。中心地のテナントや、広々とした空間……いくつもの候補を見て回るなかで、唯一「ここしかない」と直感的に確信したのが、築100年の歴史をもつ一軒の古民家でした。
階段上の吹き抜けから差し込む光、2階の窓から見える景色、そして土間。築100年の時を重ねた建物が醸す、独特の空気。空き家だった時間の長さは感じられたものの、日本建築ならではの美しさがそこかしこに残っていました。
FASが大切にしている「発酵」とは、時間を味方につけること。時間の流れのなかで変化を重ね、味わいと奥ゆきを深めていく営みです。築100年という時間の蓄積は、まさに発酵の文化と呼応するものでした。
新しい建築物には決して出せない、この建物ならではの空気感。わたしたちが大切にしたのは、時間の積み重ねが生む静穏さと温度を、できるかぎりそのまま引き継ぐことでした。既存のレイアウトを丁寧に整え、ごくわずかな造作を加え、必要最低限の補修だけを施す。このような最小限の介入のみで空間を整えていくこと。それがわたしたちの選んだ方法でした。

内と外のあわいに土間という余白を
この建物には、かつての日本家屋によく見られた土間が残されていました。屋内でありながら土足で過ごすことができる土間は、玄関や炊事場として外と内をゆるやかにつなぐ役割を果たしてきました。この土間のあり方をそのままに生かし、1階は土間と居間とで空間を分けています。 土間は、どなたでも気軽にお買い物を楽しんでいただける場として。居間は、靴を脱いでゆったりとくつろぎながら、商品をご覧いただいたり、カフェをご利用いただける空間にしています。

この土間と居間とを隔てる境には、版築(はんちく)の踏み石を設えました。版築とは、土を何層にも重ねて突き固める、古くからの建築技法。層を重ねるごとに、土は少しずつ色や表情を変えながら、時の記憶を宿していきます。 古いものと新しいものが静かに折り重なり、歴史が積み重なるように──。この場所もまた、次の百年へとつながっていくようにという思いを込めています。居間のカウンターやベンチにも、同じ版築を使用しています。
トップには「人研ぎ(じんとぎ)」という左官の技法を用い、磨き上げました。ひんやりとした、なめらかな手触り。ぜひ手を添えて、その質感を体感してみてください。

カウンターからふと視線を外に向けると、庭に佇む一本の樹木が目に入ります。 もともと土間と同じ高さだった庭の地面は、居間の床のレベルにそろえました。 窓は大きなガラスに取り替え、庭とカフェスペースがひと続きに感じられるように設えています。 外と中が地続きになることで、空間に自然な広がりと奥ゆきが生まれ、 境界がほどけていくような感覚が、ゆるやかに立ち上がります。





























